今ここの心理学…認知行動療法読本 9

 

■ほどほどの認知で今を味わう

黒木雅裕
2015年8月10日

ちょっと印象に残る体験をしました。

飛行機に乗りある航空会社を使ったのですが、その時なんだか息がつまるような狭苦しさを感じる出来事があったのです。

その航空会社は飛行機に乗るまでの流れ、機内のサービスの手際、どれも文句のつけようがないレベルの高さです。特に印象に残ったのは定時運行へのこだわりでした。

定時運行とは、飛行機が決められた時間に出発し、決められた時間に到着することです。こう書くと当たり前のに見えますが、乗客の動き、滑走路の状況、天候の状態など、不確定の要素が多い航空の世界では、難しい技術だと素人の私でも感じます。その証拠に一昔前まで飛行機は「出発の遅れ」も「到着の遅れ」も当たり前のことだったからです。

しかし、最近その常識が変わりつつあるようです。

定時に出発し、定時に到着する。それこそ新幹線が1分の遅れも無く発車し到着するように、飛行機も決まった時間通りに飛行することを当たり前にしようという強い意志を感じました。「搭乗口には15分前までに到着してください」「手荷物検査はあと3分で締め切りますので12時30分発のお客様はお急ぎ用の窓口に並んでください」「スムーズな搭乗のため、50番以下の席のお客様は後にお乗りください」などなど…数々のアナウンスで旅客の行動が誘導されていきます。

のん気で動作の遅い私にとっては正直ちょっとしんどいことです。今や空の旅は、空を眺めて一息つく時間から、定時運行の迷惑にならないために航空会社の指示を一字一句聞き洩らしてはいけない仕事になったんだなあとため息がでました。

欧米では日本のことを「超準備社会の国」と呼んだりするそうです。なにか予測不可能なことを全て無くして安全のためいつも準備にいそしむ社会…僕も含めて確かに日本人ってそういう傾向ありますよね。事前に危険を回避することは確かに大事なことですが、あまりにその圧力が強い日本の社会に息苦しさを感じるのは僕だけではないと思います。

認知行動療法的に言ってもそれはあまり適切な環境とは言えません。

認知行動療法のポイントのひとつが「ほどほど」です。ほどほどに考え、ほどほどに変えたり受け入れたり、ほどほどに行動したり休んだり…完璧主義になり過ぎると、いくらやっても満足できない、疲れてもやめることができないという悪循環で心配や不安を生み出し、場合によってはうつやパニック障害にもつながりますから、結局、完璧ではなくてもほどほどの方が役に立つ場合も多いというバランスを大事にします。

定時運行はいいことです。それで生み出される効率や競争力をほどよく取り入れることは現代社会で必要なことです。しかしその完璧さにこだわりすぎると、全ての行動が将来の準備のための行動になり、今生きていることを味わうのが難しくなると思います。

生きることの全ては予測できませんから、ほどほどの考えと行動で、ほどほどに準備する、ほどほどに今を味わうのがこころを軽くするポイントのひとつと感じます。私もどちらかというと完璧へのこだわりが強い方です。完璧にとらわれて一つのことに時間がかかりすぎたり、最初から諦めてしまうこともあります。だからこそ完璧にとらわれすぎないことも大事と感じます。

日々の生活でも、完璧主義の良いところは活用しながらもそれにとらわれ過ぎず「今までいろいろな問題があってもそれなりに解決している」「少なくとも諦めずに課題解決を続けることができる」「根拠を持って判断するが必要があれば軌道修正もする」などなど、できるだけ健全な楽観性と現実的な認知をもってほどほどの行動をしたいと考えています。