今ここの心理学…認知行動療法読本 8

■「否定的な考え」を振り返ろう

2015年7月25日 黒木雅裕

なぜ否定的な考えが問題かと言えば、それが生活の障害になるほど気分を落ち込ませることがあるからなんですね。

何か具体的な問題があるとき、気分が落ち込むのは当たり前のことです。逆に現実に問題があるのに不安や心配がないとしたらそれはちょっと危険ですよね。不安は今私たちに問題がある、という事を教えてくれますし、心配は、ではどうやって解決しよう?と踏ん切りをつける力になってくれるわけです。

言いかえれば、不安や心配は私たちの生活をサポートするアラームでもありエネルギーでもあるんですね。

不安や心配が、「今あなたは問題に直面してますよ」と警告してくれるからこそ、「それってどんな問題だろう」とか「じゃあそれを解決しなくちゃ」という気持ちになれるわけです。

しかし、そんなふうにすぐ問題をハッキリさせたり、解決のための行動を起こせればいいんですがなかなかそういかないことも多いんですね。問題が引き起こす不安や心配が、アラームのレベルを超えて否定的な考えを引き起こし、今度は行動できなくなるほど気分を落ち込ませることがあるからです。

「出来事」+ 「考え」= 「気分」の公式が暴走するわけです。

例えば仕事に失敗して上司に怒られたとしましょう。

もし、「上司に怒られてしまった。でも今までも解決できたから私には解決できるだろう。少なくとも自分を成長させる機会にできる!」という考えが起これば、心配や不安はむしろ解決のエネルギーに変わっていきます。逆に、「上司に怒られてしまった。私っていつも失敗ばかりしているなあ。やっぱり私はダメな人間だ」という考えが起これば不安や心配がさら増幅していきます。

これってもともとの失敗の内容は同じなんですよね。でもその失敗に対して起こる考えの違いで、正反対の気分や行動が生まれてくるのです。認知行動療法では、現実に起こっている出来事や自分の行動を振り返り、「本当に私はいつも失敗しているのか」「本当に私はダメな人間なのか」「そもそもダメとはいったい何を基準に言ってるのか」、などの否定的な考えが妥当なものかを丁寧に確認していきます。

不安や心配の強い人は往々にして非現実的な自己否定をしていることが多いですから、丁寧に自分の考えのかたよりを確認していくとそれだけでも自然と気分は回復してくのです。

さらに言えば、視点を変えたり現実を振り返ったりするまでもなく、「私はいつも失敗をしている」とか「私はダメな人間だ」などと考える事が何か役に立つのかを確認するのも大事な視点です。

現実の結果から振り返ってみれば、そんな考えを浮かべたとしても、自分の失敗の内容は何も変わらないし、また自分の価値が上がることも下がることもないのではないでしょうか?

なぜ人間がそんな風に考えがちなのかはさておいて、そういう考えを持つことが問題解決や自分の価値には何の関係もないことに気づきを向けるのは、有効な気分の作り方です。

確かに繰り返し失敗をして、他の人が「あなたはいつも失敗しているなぁ」と評価していることはありえることです。だからといってそのことでさらに自分で自分を否定しても、単に落ち込んでエネルギーを無くすだけで、問題解決や行動のためにはあまり役に立ちません。

ほどよく区切りをつけて「いつも失敗してると思われているだろうなぁ。でもとりあえず目の前の事に取りかかれば、問題がひとつでも解決するかもしれない。そうすれば気持ちが楽になるし、評価を変える事ができるかもしれない。また自分にできるだけのことをすれば、少なくとも私は私の役割を果たしたことになる」と考えて、気持ちを行動の方に向けてあげるのも大事な気分の作り方なのです。