今ここの心理学…認知行動療法読本 6

■二人の第一人者

黒木雅裕 2015年6月12日

私が認知行動療法の研修に参加するようになって3年目になります。

最初の2年は大野裕先生、3年目からは堀越勝先生の元で勉強を続けています。

大野先生は、認知行動療法の開発者であるアーロン・T・ベック博士のもとで研究を始められた日本の認知行動療法の第一人者です。また堀越先生も、大野先生退官後、国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター長に就任された日本のトップランナーです。

二人の第一人者のもとで勉強できるというめぐり合わせの良さは私にとって大きな事ですがなかでもちょっと興味をひかれるのは二人のお人柄です。

大野先生は、著作や研修の中でたびたび「私はもともと心配性でなかなか自分に自信を持てない性格です」と語られています。講演や研修など人前で話す時には、極度に心配性になったり不機嫌な雰囲気になったりするそうです。

また堀越先生も同様です。最初に聞いたセミナーは「完璧主義の問題点を認知行動療法でどう取り扱うか?」というテーマでしたが、最初に話されたのが「私こそ完璧主義です」という発言でした。また「完璧主義でなければもっといろいろな事を素早くできるのにね」とちょっとグチられた話も耳にしました。

面白いですよね。

日本の心理障害のトップランナーふたりがふたりとも、患者をケアする治療者としてだけでなく、自分のこころのあり方に対処しなければならない当事者として研究や教育に取り組まれてるわけです。

しかしちょっと振り返れば「それはそうかも」とも思います。

治療者という「強者」としてだけでなく、自分のこころの中の心配性や完璧主義というご自身の「弱点」と折り合いをつけながら彼らが進まれてるからこそ、日本の認知行動療法がこれほど身近でわかりやすいものになっていると感じます。

専門家としてまた第一人者としての技術的心理的な高い壁を感じさせながらも、同時にその壁の間から「弱点」をにじませながらお話してもらえるのがお二人の魅力です。

言いかえれば、必要以上に自分を大きく見せる事のない充分以上率直なお人柄という事です。機会があればみなさんもぜひご講演を聞かれてください。

お二人の著作を1冊ずつご紹介します。両方ともわかりやすく毎日の生活に役に立つ実用の本です。心配性の方、あるいは心配性の人といつも話さなければならない方などには特におすすめです。

「はじめての認知療法」大野 裕
(講談社現代新書)

「ケアする人の対話スキルABCD」堀越 勝
(日本看護協会出版会)