今ここの心理学…認知行動療法読本 4

■人間本来の「考える力」を取り戻す

黒木雅裕 2015年5月22日

認知行動療法の理論はとてもわかりやすいものです。名前こそちょっと難しいけれど、直感的に「あっそうか」と理解できる言葉が多い、そんな印象です。

その他の心理療法の難しい言葉を見るにつけそう感じます。分かりやすすぎてホントに役に立つの?と疑われそうなくらいです。

なぜなら認知行動療法は、私たちにもともと備わっている心理的な解決能力を言葉にしたものだからです。だからこそ革新的なんですが…

「考える力」というのは私たち人間と動物を分ける大きな違いですよね。きっと動物も動物なりの「考える力」を使ってると思いますが人間のそれとは次元が違います。

地球上の数多くの生きものの中でも、人間の肉体は弱くて脆い方だと思います。しかし生きのびる能力は他の動物より強い。それは人間が他の動物より、はるかに優れた「考える力」を持っているからでしょう。

人間は「考える力」があるので、道具を作ったり、言葉を使ったり、仲間と協力したりして生きる能力を高めています。

問題に直面しても反射的に戦ったり逃げたりするだけでなく、どうすれば一番自分や仲間の役に立つか、その方法を「考える」のです。そうやって生きる力を高めている。

一方で「考える力」は逆に生きる力を弱めたりします。

人間は「考える力」を発達させすぎたのでしょう。問題解決のためだけに「考える力」を使えばいいのに、なぜか「考えすぎる」ようになってしまいました。

問題について「考えすぎる」結果、人間は「悩み」を持つようになりました。そして「悩みすぎる」結果、不安や心配にとらわれて行動できなくなることが出てきたのです。

不安や心配がだめなわけではありません。それらは、私たちに問題や危険を知らせてくれる「生命を守るための警報」ですからとても大事です。不安や心配があるからこそ私たちは問題の存在に気づくことができます。

ところが不安や心配が強くなりすぎると、今度は問題解決のエネルギーまで消耗してしまうんですね。問題解決どころかそれ以前の行動さえできなくなります。

おかしいと思いませんか?人間は本来、問題を解決してより良く生きるために「考える力」を発達させたはずです。その「考える力」が逆に問題解決の力を弱め私たちを動けなくする…

たぶんどこかで「考える力」が迷路に入ってしまうんですね。問題解決のための「考える力」を弱めてしまうほど、人間の「考える力」が発達しすぎてしまったのかもしれません。

しかしもともと「考える力」は問題解決のための道具に過ぎないのです。ですから「考える力」が逆に問題解決の邪魔をするのは不自然な状態なわけです。

認知行動療法はその不自然の解消に取り組みます。「考えすぎ」「悩みすぎ」に焦点を当て、どのように考えすぎているかを確認して考えのバランスを取り戻していきます。

そういう意味では認知行動療法は、人間本来の「考える力」を取り戻す方法なんですね。