今ここの心理学…認知行動療法読本 11

■不安や心配はなぜ大きくなるのか?

黒木雅裕 2015年11月22日

誰にでも不安が大きくなり過ぎて仕事や勉強が手につかなくなる時があります。また心配が行きすぎて落ち込みになり何をやっても楽しくない、楽しむ余裕がない時もたくさんあるでしょう。特に日本の社会は、「完璧にやらなければならない」「他人と違うことをしてはならない」などの「日本人という集団の中の暗黙のルール」に強くしばられた社会ですから、私たちみんながお互いに不安や心配を押しつけあって、それを強めていることも否定できません。

ただしもともとの「不安」や「心配」に責任はありません。むしろそれらは私たちが問題を解決して生き延びるための大事なアラームとして機能しています。

アフリカので生きる野ウサギを思い浮かべて下さい。巣の穴から顔を出していつもキョロキョロ見渡してますよね。天敵に食べられないようにしたり飢え死にしないようにエサを見つけるためには、いつも不安で心配をしないといけないわけです。

人間も基本的には同じです。アフリカのサバンナのようにいつも生命の危険にさらされてるわけではないですが、それでもそれなりに社会の危険を回避しながら生きなければならないのが現実です。ですから不安や心配は私たちが生きるための最低必要条件と言えるでしょう。

ではなぜ、生きることに役立つはずの不安や心配が、生きる邪魔になるほど大きくなってしまうのでしょうか?例えば不安が暴走してパニック障害になり、乗り物に乗れなくなくなったりすることもあります。また落ち込みからうつ病になって部屋に引きこもってしまい、社会活動ができなくなることもあります。これではとても、不安や落ち込みが生きるための手段として必要だとは言えません。

理由は思考、感情、行動の悪循環にあります。

ごく単純化して言えば、

ショックな出来事があって心配や不安といった感情が生まれる。

それらの感情が、これから起こる出来事やそれに対処する自分に対して「私には解決できない」「やっぱり私はダメだ」といった否定的な思考を生み出す。

それらの否定的な思考がこころに負担を与え、
不安や心配の感情がさらに増幅する。

不安や心配が大きくなって、
具体的な行動や解決から逃げたり、緊張で行動できなくなる。

行動や解決ができなかったという結果が、
「私には解決できない」「やっぱり私はダメだ」といった否定的な思考をさらに強化する。

その否定的な思考が感情に負荷をかけ、
さらに不安や落ち込みが強くなる。

といった具合ですね。

この否定的な思考は通常、無意識に頭の中に生まれます。ですから人は、自分が今、必要以上に否定的な考え方をしていることになかなか気づけないんですね。また考えていることには気づけたとしても、なぜかそれを無条件な真実として信じてしまい、逆にその悪循環を強めてしまうことになるのです。

認知行動療法を勉強して改めて考えさせられるのは、脳が発達して頭が良くなりすぎた人間が、自作自演で作り上げてしまう不安や落ち込みについてです。

不安や落ち込みそのものは、良いも悪いもありませんが、それを繰り返して考えたり、自分を否定して悩みや苦しみを上乗せすることにはなんの意味があるのでしょうか?

たとえば人間以外の動物は、何か問題があってもただそれを解決しようとすぐに行動することが基本です。

それに比べて、人間のこころはなんとも複雑かつ不安定で、また矛盾の多いシステムなのだなと感じます。