今ここの心理学…認知行動療法読本 5

■「考え」を言葉にする

黒木雅裕 2015年5月29日

認知行動療法では、私たちが無意識に行っている「考え」を文字や言葉にして確認する作業をします。

このあたりも認知行動療法の実用的な特徴ですね。普段は無意識に起こっている考えを、一度言葉にして自分の「外」に出してみるのです。

私たちは普段「自分の考えていることを自分はちゃんとわかっている」と考えています。

しかし、実は人は一旦自分の考えを言葉にしして外に出さなければ、自分の考えを知ることはできないんですね。考えは一度頭の中から出して現実と照らし合わさなけば本当の姿がわからないのです。

「自分が本当は何を考えているか」が分からなければ、実は解決方法のある問題についても「もうどうしようもない」という思い込みや決めつけで絶望することもしばしば起こりがちです。

認知行動療法では、コラム法やカウンセリングで考えを意識化します。考えを言葉にして自分の考え方のクセを把握し、その考えが現実に沿った妥当なものなのかどうかを見直していく作業をするんですね。

考えが現実の問題に沿った妥当なものなら、その問題解決に集中します。逆に思い込みや決めつけが強い「考えすぎ」のものなら、その考えを現実的でバランスの取れた状態に軌道修正していきます。

もう一つ興味深いのは、考えのバランスを取る作業以前に、自分の考えを文字にしたり言葉にしたりする作業そのものに気分を改善させる効果があることですね。

例えば悩みを誰かに聞いてもらうだけで気分が軽くなったという経験は誰にでもあるのではないでしょうか?。問題がなくなったわけではないのに自分の考えを言葉にするだけで気分は軽くなるわけです。

言葉にするまでは、やたらと大きく見えた問題が、言葉にすることで少なくとも「等身大の問題」になるのでしょう。それだけでも一段階気分が軽くなるわけです。

不安や心配でいっぱいになった時、信頼できる人にとりあえず「今日はただただ話を聞いて」とお願いして悩みを話したり、メモや日記に今の気分や悩んでいることをとりあえず書き留めることは認知行動療法的に言っても、こころの健康を守る有効な方法と言えます。